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化粧文化 COSMETIC CULTURE
日本の化粧文化史

011

原始化粧から伝統化粧の時代へ
平安時代5 花開く香り文化

2020.12.22

平安貴族の宮廷生活では、「香り」が日本独自の文化として花開き、女性にとって重要なおしゃれとなっています。今回は平安時代の「香り」について、お話しましょう。
「香り」は現代のおしゃれにも欠かせないものですね。使い方は、最後の総仕上げにシュッとひとふき、香りだけが主張しすぎないように。では、平安時代はというと。当時のファッション、幾重にも組み合わされた十二単の衣に丹念に香り付けをおこなっていたのです。平安貴族の女性は、他人に会うときは、御簾の後ろに控えていたり、扇で顔を隠したりして、他人にあらわに容姿を見せないことがマナーでしたし、化粧や服装は、階級や身分などによる決まりに従ったものでした。厳格な服装規定と隠す慣習の宮廷文化のなかで、女性たちが現代のように自由に個性を表現する手立てが「香り」だったのです。
当時詠まれた歌や物語などにも、香りに関することが多く登場しています。当時の人たちにとって、香りは、とても重要なものであったことが分かります。

当時詠まれた歌や物語などにも、香りに関することが多く登場。平安女性は香りで自由に個性を表現したといわれる。
中古諸名家美人競 紫式部当時詠まれた歌や物語などにも、香りに関することが多く登場。平安女性は香りで自由に個性を表現したといわれる。
中古諸名家美人競 紫式部

では、日本の香り文化のはじまりは?というと、六世紀初めの仏教伝来からといわれています。今でも、仏教では、香は仏前を清めるものとして儀式に欠かせないものとして受け継がれていますね。
香の歴史の中で日本で最初と考えられる記録は『日本書記』の推古天皇三年(595)四月の条にあります。
「三年の夏四月に、沈水(ぢむ)、淡路嶋に漂着(よ)れり。基の大きさひといだき。嶋人、沈水ということを知らずして、薪に交(か)てて竃(かまど)に焼く。其の烟氣(けぶり)、遠く薫る。 則ち異なりとして獻(たてまつ)る。」
沈水とは、ジンチョウゲ科の香木で、一般に沈水香木<沈香(じんこう)>と呼ばれる品位高い香りを有している香木です。淡路島に流れ着いた香木を島の人々は流木と思い、かまどに投げ込んだところ大変かぐわしい香りのする煙がたちのぼった。驚いた人々は、この木片を朝廷に献上したと記されています。

沈香。ジンチョウゲ科の常緑高木で土中に埋もれて樹脂が凝結して出来る。産地は東南アジアやインド。
沈香。ジンチョウゲ科の常緑高木で土中に埋もれて樹脂が凝結して出来る。産地は東南アジアやインド。

平安時代になると、仏に供えるための香とは区別して、趣味として香を楽しむことが貴族を中心に男女を問わず流行しました。特に十世紀から十一世紀にかけておこなわれたのが、薫物(たきもの、練香のこと)です。これは、沈香や白檀などの香木と丁子(ちょうじ)や麝香(じゃこう)など各種香料の粉末に蜂蜜や梅酢、炭粉などを練り合わせて固めたものでした。この薫物の作り方を最初に伝えたのは唐からの渡来僧 鑑真和上だといわれています。香の楽しみ方は次第に発展して、平安時代には空薫物(そらだきもの)といい、伏籠(ふせご)や香炉を用いて衣服や部屋に香を焚きしめてたのしむことが盛んになっていました。当時の香の使い方について、王朝文学からその一端を知ることができます。
「こころときめきするもの…よきたき物たきてひとりふしたる…かしらあらひ化粧じて、かうばしうしみたるきぬなどきたる」『枕草子』(二九段)、(どきどきするもの…上等の薫物をたいて、ひとりで横になっている時。髪を洗い、お化粧をして、かおり高く香のしみた着物など着た時の気持ち。)
「そらだきもの、心にくく薫りいで、名香の香など匂ひみちたるに、君の御追風、いと殊なれば、うちの人々も、心づかひすべかめり」『源氏物語』(若紫)(空薫物のかおりが心にくくただよい、名香の香などもあたりに満ちているのですが、君のお袖の追風がひとしお匂い渡りますので、奥に隠れている人々も何となく胸をおどらせる様子です。)
こうした文章から、香りが貴族の生活に欠かせないものとなっていた様子や香りによせる人々の思いが読み取れます。
中国大陸から渡来した文化を次々と取り入れ、貴族を中心の国風文化が花開いた平安時代。宮中の仄暗い部屋で顔を隠して他人と会う生活のなかで、積極的にアピールできたのが「香り」だったのですね。独自の香りを身にまとうことは、相手に私を印象づけ、さらに通り過ぎた際の残り香などで存在をしめす、優雅で有効な手段だったのでしょう。ですから、「香り」は貴族社会における重要なたしなみとなり、その文化は広がって江戸時代まで続いていきます。
次回は貴族社会から武家社会へ、鎌倉、室町、安土桃山時代のよそおいについてお伝えします。

伏籠と香炉。衣服に香を焚きしめるために用いた道具。中に香炉を置いて籠でおおい、衣服をかけて香を焚きしめた。
橘唐草紋散蒔絵伏籠(江戸時代)と山水蒔絵阿古陀香炉(明治時代末)伏籠と香炉。衣服に香を焚きしめるために用いた道具。中に香炉を置いて籠でおおい、衣服をかけて香を焚きしめた。
橘唐草紋散蒔絵伏籠(江戸時代)と山水蒔絵阿古陀香炉(明治時代末)

※このコンテンツは2014年から2019年にポーラ文化研究所Webサイトにて連載していた「新・日本のやさしい化粧文化史」を一部改訂再掲載したものです。

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